INTERVIEW
2017.10.31

株式会社ワンプラネット・カフェ ペオ・エクベリ氏 エクベリ・聡子氏に訊く バナナペーパーでつながる「サステナビリティ」とは

採用面接や提案営業の初回訪問時など、誰かと会うときに短い時間でも強い印象を残すには――。

組織のトップには日々多くの人が訪れる。経営者の視点から見た「記憶に残る人」、「もう一度話を聞きたくなるビジネスパーソン」の特長とは何だろうか?経営者自身が実際に心がけているポイントも聞ける経営者インタビュー『PERSON ~印象に残るあの人~』。

今回は、環境やサステナビリティをテーマとしたコンサルティングや、ワンプラネット・ペーパー®の生産と販売を手掛ける株式会社ワンプラネット・カフェの取締役 ペオ・エクベリ様、代表取締役社長 エクベリ聡子様に、新規事業開拓までのストーリーとアフリカの現地メンバーの育成、そして仕事をする上でのポリシーについてお話をお伺いした。

※One Planet Paper®(ワンプラネット・ペーパー®)とは
日本の和紙技術とアフリカの村でとれる有機バナナ繊維で誕生したバナナペーパー。一般の紙の原料となる森林は育つまでに30年かかるのに比べて、バナナの茎は1年で育ちます。またバナナの実を収穫する時、茎は通常ゴミとして捨てられます。それを再利用して作られるバナナペーパーは環境に配慮された製品です。環境配慮に加え、開発途上国に雇用を生み出すことから、人にも優しい紙として世界で普及。貧困が引き起こす野生動物の密猟や違法の森林伐採などの問題解決も目指しています。2016年には、紙業界で日本初となるフェアトレード認証 (WFTO 世界フェアトレード機関)を取得しています。

「バナナペーパーを使用した名刺であれば、
 納得して相手に渡すことができると思いました」

―バナナペーパーを生産することになったきっかけを教えてください。

ぺオ・エクベリ氏:夏休みを利用して野生動物を見に行ったザンビアで、素晴らしい自然、野生動物の世界が広がる一方で、現地の村の人たちの暮らしは貧しく、貧困が原因で様々な環境問題が起きていることを知りました。ここで環境を守りつつ、貧困問題を解決する仕事を生み出していく必要性を強く感じたのがバナナペーパーを始めたきっかけです。

バナナペーパーについては、日本で古紙パルプ配合率の偽装問題が起き、より環境配慮型の紙を探していた時に出会いました。当時私はテレビやラジオなどで環境に関する話をする環境ジャーナリストとして活動していたので、偽装問題に関してすごく怒りを感じました。それまでいろんな場で講演させていただき、「再生紙やリサイクルペーパー選びましょう」と言っていたのに、結局それは嘘だったのです。ですから、偽装問題後はラジオなどでは「紙を使わないでください」と訴えていましたし、大学で環境政策論を教えていたので、大学生に「紙をやめましょう」とも講義していました。

しかし、実際に私もペーパーレスを実行してみると、(紙の)名刺をやめることができなかった。いくらペーパーレスを推進してもどこかで紙は必要になってくる。紙には2000年の歴史があるし、なくならない。生活に不可欠で、消費財や食べ物と近いと気付いたのです。特に名刺は日本の文化でもあり無くすことはできない。そこで、当時のラジオ番組のマネージャーが探し出したのが、バナナペーパーの名刺でした。バナナペーパーを使用した名刺であれば、名刺交換のときに納得して相手に渡すことができると思いました。

「ワンプラネット・ペーパー®は、サステナビリティを重視しています」

―貴社が普及しているワンプラネット・ペーパー®について教えてください。

ぺオ・エクベリ氏:当時、日本の印刷会社さんが既にバナナペーパー名刺を作っていたので、すぐに連絡して話を聞きました。しかし、当時のバナナペーパーはアジア産のバナナから生産されていて、その紙が児童労働に繋がっている可能性があるかもしれないことが問題でした。そこで、アフリカのザンビアで作るバナナペーパーは、作っている人の顔が見え、環境にしっかりと配慮した紙を作ることを目指しました。

ワンプラネット・ペーパー®は、サステナビリティ(Sustainability)を重視しています。サステナビリティとは、環境(Planet)・健康(People)・経済(Profit)の3つの柱が調和しながら持続的に発展していくという考え方です。

具体的には、フェアトレードの取り組みがあります。フェアトレード製品と認定されるのに10の指針と約100の基準があるので、それを達成する必要があります。もう一つは、環境循環に基づいた商品であること。この事業はボランティア活動ではないので、「貧困を減らす」だけでは成り立ちません。環境と人を守り、同時に事業として経済をまわしていく必要があります。利益がでないと、何かが間違っていることになります。私たちは、ワンプラネット・ペーパー®がグローバル・ブランドになることを目指しています。

「Empty stomach has no ears(空腹に耳なし)
 そのことわざが、現地ですごく身に染みました」

―ワンプラネット・ペーパーを生産するには、ルールや条件を現地の方と認識合わせすることが重要になってくると思いますが、考え方を共有する方法として意識していることはありますか。

ぺオ・エクベリ氏:ワンプラネット・ペーパー®を作るうえでの環境的な意義やルールについて、はじめはアフリカの現地の人たちに聞く耳を持ってもらえませんでした。当初、彼らは仕事があるかどうかだけを気にしていました。「飢えをしのぐ食べものが欲しい、食べるためのお金が欲しい」ということだけが気になるのです。もちろん、人生で初めて仕事を持つ人もいて、そういう人たちに合わせた指導が必要になります。

アフリカには、「Empty stomach has no ears(空腹に耳なし)」ということわざがあります。お腹が空いていると、聞く耳をもたない、という意味です。こちらがいくら「環境を守ろう」とか「ケミカルな物質を使うな」と言ったとしても、お腹が空いている…つまり食欲や、食べ物があるという安心感が満たされていなければ、相手には聞く力がないのでこちらが伝えたいことは伝わりません。そのことわざが、現地ですごく身に染みました。

だから、まずは安定して雇用することを目指しました。安心して仕事を持つことで、チームメンバーは少しずつ聞く力を持ち、理解していきます。また、工場敷地内にみんなが集まってミーティングができる教育センターを作りました。世界が目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」とは何か、バナナペーパーはSDGsにどう関わっているか、フェアトレードとは何かなど、身近なことと世界の課題をつなげながらバナナペーパーの意義や私たちが目指していることをゆっくり、しっかりと伝えるよう心掛けています。

今では、私たちに頼りきりにならないよう、できるだけ自分たちで考えて解決できるようにしています。もちろん、様々な相談にはのり、積極的にサポートも行っています。現地と日本でビデオ会議をすることもありますね。

「"共感する人の輪を広げる"ということを大事にしています」

―これまでに、社長にとって印象に残った人はどんな人でしょうか?

記憶に残る営業の方といえば、こちらが宿題にしたつもりもない小さな質問に対しても後日しっかり返答してくれた人は有能だと感じます。ちゃんと私の話を聞いてくれていたということはとても大事なことで、次にもう一度会って話を聞きたいなと思いますね。

初対面でも私がやっていたラグビーについての話をしてくる人は、訪問の前にちゃんと調べてきているなと思いますし、私自身も話しやすい内容なので話も弾みます。そういう点では自社の社員に対しても、一方的に話題を振るのではなく、まずは相手に対して興味を持ち、そして相手の話もよく聞くということを心掛けて欲しいですね。そうすることでお互いが勉強になり、相手に影響を与えられるようになります。コミュニケーションとは、どちらかが一方的におもしろい話をして終わるというのでは成り立たないと考えます。

しかし、ある分野において誰もが認めるほど優れ、相手に印象を強く残すほど中身のある内容を語れるようになるには多くの時間と経験が必要です。まだ経験が少なく、自信を十分に持てない若い世代の人は、少なくとも見た目や仕草はちゃんとしなければいけない、と思うのです。見た目や挨拶をちゃんとすることは、意識さえすれば誰もができる簡単なことですよね。

―パートナーシップを広げるうえで重要なポイントは何ですか。

エクベリ・聡子氏:バナナの繊維取りは単純な作業で、個人のスキルを伸ばしていく要素がほとんどありません。そこで、紙を抄造することで職業スキルをつけられる場にしたいという思いから、日本大使館に申請し、支援を得ることができました。その支援により工場を建て、機械を入れることができました。ただし、ザンビアの自然や雇用を守るために必要以上の自動化・機械化は目指しません。現在、基本的な紙の抄造ができるようになったので、今後は紙の質を上げることを目指してトレーニングしていきます。

「有言実行!いくら口で言っていてもやらないと意味がありません」

―数多くの講演をされるなかで、物事を伝えるうえでのポリシーはありますか。

ぺオ・エクベリ氏:有言実行!いくら口で言っていてもやらないと意味がありません。「貧困問題を解決しましょう」「温暖化を防ぎましょう」「ゴミを減らしましょう」「生物多様性、絶滅危惧種を守ろう」とか、いろいろ言葉で言っても行動しないといけません。積極的に社会に影響を与え、よりよい世界を作るためにまずは行動してみる。

「言霊(ことだま)」というように、発した言葉には魂がある。森を守る活動をしながら、環境に優しくない紙で作った名刺を使う?それは矛盾します。自分で言ったことと逆の行動を私はやりたくありません。それは仕事上だけでなく、日常生活にも落とし込んで考えるべきです。

ここの住まい兼事務所は、100種類近くのサステナビリティの取り組みを取り入れてトータルリフォームしました。最初はとても暗い部屋でしたが、壁やドアに窓をつけ光が通るようにしたり、湿度のバランスを取ってくれる珪藻土の壁にしたりしました。カーテンはヘンプで、床はFSC森林認証の木材を使っています。

日本の平均世帯と比べ、この家のCO2は88%カットされています。ゴミは86%減りました。私たちが出す1ヵ月分のゴミは、一人あたりサッカーボール1個分です。水の使用量は68%減らすことが出来ました。通常は一人あたり平均で月300リットルくらい使っていますが、私たちは100リットルしか使っていません。これは過度な節水をしているのではなく、節水シャワーヘッドを活用するなど、家のつくりや設備でも工夫しているからです。電力使用量は51%減りました。サステナビリティへの取り組みは、測らないと体重計のないダイエットと同じですから、こうやって数値を測るようにしています。そして、リフォーム費は一般のリフォームより300万円近く節約できましたし、私達の生活費は毎年20万円以上節約できています。

ただ言葉で「サステナビリティがいいよ」と言うだけでは十分ではありません。生活と仕事を切り離して考えるのではなく、日頃から食べているもの、着ているものもフェアトレードやオーガニックを選ぶ。私たちは有言実行する、それがポリシーです。今着ているのはフェアトレードのTシャツです。講演するときも、シャツや靴下など、できるだけ環境配慮型のものを身につけるようにしています。

「サステナビリティを包括的に取り入れましょう」と言っても普通は訳が分からないですよね?でも、「バナナペーパー、これ名刺ですよ」と言ったら話題になりますよね。「バナナの香りしますか?」とか「ザンビア産なんだ」とか会話が広がっていく。環境について学ぶだけでなく、サステナビリティに参加することができるのが一番のポイントだと思います。

―これからチャレンジしたいことはありますか。どういったことを伝えていきたいですか。

ぺオ・エクベリ氏:バナナペーパーには希望がある。サステナビリティとはただの理想ではなく、スウェーデンでは既に当たり前のことになっています。

グリーンエネルギーで走るバス。スーパーに行けばオーガニックやフェアトレード商品。街中に自転車道路…。これが日常になっています。スウェーデンはこの数年でサステナビリティのティッピングポイント(転換期)を超えたと感じています。地球温暖化を防ぐ、環境問題を防ぐ、絶滅危惧種の問題を止める、生物多様性を回復する…ということが可能だと伝えたいです。チャレンジであることは間違いありませんが、積極的なチャレンジですね。

エクベリ・聡子氏:スウェーデンのスローガンで、Greener means richerという言葉があるんです。よりグリーンになることで、経済的にもより豊かになるという意味です。この二つは相対することではなく、両立すること、それは自然や環境の取組を強化することであり、そのことにより社会面でも、経済面でもリッチになっていく。そういう意味が込められており、私たちが目指しているのもそこにあります。

バナナペーパーが広がれば、木を伐採しなくても良い。自然が豊かになるだけではなく、社会が豊かになる。バナナペーパーの事業に関わる企業のみなさんが潤っていく、事業を通じて持続可能な発展に繋げていけたらと思います。

※児童労働
義務教育を受けるべき年齢の子ども(15歳未満。一部14歳未満の国あり)に対して、教育を妨げる労働や法律で禁止されている危険・有害な労働を強いること。世界には1億6800万人、世界の子どもの9人に1人が児童労働をしているといわれている。

※サステナビリティ
「持続可能性」を意味する“Sustainability”のカタカナ表記。企業分野では、利益を上げるだけでなく社会的責任や環境への配慮を果たすことで、将来においても事業を存続できる可能性を持ち続ける、という意味で用いられる。

※フェアトレード
公正な取引。発展途上国の貧困に苦しむ生産者・労働者の生活改善と自立目指し、公正な取引を通じて支援すること。

※環境循環
自然に返すことができる以上に資源を取らないこと。有限である資源を効率的に利用するとともに再生産を行い、持続可能な形で循環させながら利用していくこと。

※持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた目標。17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されている。

※パートナーシップ、ワンプラネット・ペーパー協議会について
ワンプラネット・ペーパー®協議会は、紙製品メーカー、印刷会社によるイニシアチブ。環境に配慮し、アフリカの貧困層の村に雇用を生み出し、現地の人々の自立を支えるバナナペーパー「ワンプラネット・ペーパー®」の普及を推進しています。その他、フェアトレードや環境と社会に配慮した紙に関する研究、意識啓発を行っています。


  • ペオ・エクベリ
  • Peo Ekberg
    ペオ・エクベリ

    株式会社ワンプラネット・カフェ 取締役、環境マネージャー
    スウェーデン出身。環境NGO団体リーダー、ジャーナリストを経て、1997年One World(ワンワールド) 国際環境ビジネスネットワークを設立。2012年に株式会社ワンプラネット・カフェと統合し、現職。日本全国で400回以上 環境問題の解決やサステナビリティについての講演、100回以上 コラム執筆、テレビやラジオの環境番組に出演・キャスター (例: NHKワールドのキャスター)。
    イギリスBBCのWEBページ Hero で、アル・ゴア元アメリカ副大統領やアルピニスト野口健氏と並び環境リーダーの一人として紹介される。 2011年、One Planet Caféザンビアのチームと共にバナナペーパープロジェクトをスタート。武蔵野大学非常勤講師(環境政策論:2006年~2012年)、ワンプラネット・ペーパー®協議会会長。

    著書: エコライフのガイドブック「うちエコ入門」(2007年、宝島社、第3版)。
    その他: 15才と19才の時にサッカーのリフティングで世界記録を更新。

  • エクベリ・聡子
  • Satoko Ekberg
    エクベリ・聡子

    株式会社ワンプラネット・カフェ 代表取締役社長
    日本出身。長年、日本・欧米・インド関連で企業向けのCSR(企業の社会的責任)コンサルティング、環境経営戦略、人材育成支援、産学官民のネットワーク運営に従事。前職のコンサルティング会社で環境省プロジェクト、企業の環境・サステナビリティ人材育成、東北大学大学院のサステナビリティ分野における修士課程カリキュラム構築など多数の実績を踏まえ現職。サステナビリティ関連の研修企画、講師、ファシリテーションを数多く手がける。
    株式会社イースクエア取締役('02年 – '15年。企業向けCSR・環境取り組み支援、研修、講演)、One Planet Café ザンビア 共同設立者、東北大学大学院環境科学研究科非常勤講師('05年-'15年)。

    著書「うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること」(共著、宝島社)、「地球が教える奇跡の技術」(執筆協力、祥伝社)

  • 株式会社山櫻
  • 株式会社 ワンプラネット・カフェ

    所在地/東京都港区

    概 要/環境やサステナビリティをテーマとしたコンサルティング、講演・バナナペーパーの生産と販売・フェアトレード商品の企画、販売・視察&研修ツアー

取材後記

取材はマンションをエコにリノベーションしたオフィスで行なわれました。

環境コンサルトとして従事しながらアフリカのバナナの茎で紙を作るという偉大な取組みを始めた方の取材を前に、緊張ムードでオフィスのドアを叩きましが、開かれた扉の先には笑顔で招き入れてくださるペオ・エクベリさんとエクベリ聡子さんの姿がありました。

お話の内容は、バナナペーパー誕生の背景からアフリカの貧困が引き起こす環境問題など多岐に渡りましたが、多くの課題があるなかでも、終始希望を持ってお話をされている姿が印象的でした。それは「自分たちで現状を変えることができる」という確信からくるものなのかもしれません。ポジティブな印象の裏には、ペオ様の環境に対する追求心と行動力が隠されているのだと思いました。そして、環境に従事する方に限らず、地球環境の問題は私たちとって身近なものであると同時に、私たち自身が声をあげることで一つずつ変えていくことができるのだと思いました。

文/四宮真梨恵
写真/小野優衣
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